No.157 2001.10.19
年末の帰省に合わせた、小学校同窓会の通知が届きました。
■会費:1万円。(ひぇー、高すぎるぅー)
■場所:○○市グランドホテル(ひぇー、実家から2時間以上かかるよ)
何で、なつかしの母校でやらないんだろ。
それなら喜んで行くのに・・・
というわけで欠席の連絡を。
幹事は、大藪聡君。
小学校入学1週間目で、先生に怒られた最初の生徒です。
コチサ
「もしもし、同窓会欠席です」
大藪君
「えー。みんななんか欠席多いんだけど忙しいのかな?」
コチサ
「そうかもね(場所と金額を考えて見ればぁ)」
大藪君
「参ったなぁ、どうしてもダメ?」
コチサ
「だめー!それよりさぁ大藪君、「赤い目印」の事覚えてる?」
大藪君
「赤い目印?よく覚えてるね。そんな事覚えてるのは、自分と大竹ゆかりだけかと思ったよ・・・」
それは、一週間後には小学校入学という頃。
お母さんは、学校から買って来た「補助教材」に名前を入れるので大忙しでした。
今はどうかは知らないけど、当時は「補助教材」というのがあって、数の計算用のコインとか、マージャンの点棒みたいなやつとか・・・とにかくそこには細かい備品がいっぱい入っていました。
そして、その一つ一つに、名前を入れるようにお達しがあったのです。
お母さんにとってはそれはそれは大変な作業でした。
プラスチック製のものには、直接書けないので、小さな紙に書いてそれを切って貼り付けるという作業・・・
家中に「ますださちこ」という切抜きが散らばっていました。
そしてそれは、何処の家でも同じだったようで・・・
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
最初の補助教材の授業の日・・・
補助教材というよりは「おもちゃ」の感覚で、みんなは数の計算や時計の読み方をわいわい勉強していました。
みんなの補助教材には、それぞれ名前が・・・
そんな中・・・
大竹ゆかりちゃんは、
「赤い目印はあたしだからね。あたしは赤い目印だよぉ」
自慢げに胸を張っていました。
見ると、大竹ゆかりちゃんの補助教材には名前の変わりに、四角く切り取られた、真っ赤に光るシールがキラキラしていました。
コチサ
「ゆかりちゃんのかっこいいね」
ゆかり
「うん。赤い目印。お母さんが発明したんだよ。先生、私の赤い目印なんだよ」
先生は苦笑するように頷いていました。
その時でした。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
大藪君
「なんだ、赤い目印なんて。取っちゃえ取っちゃえ」
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
そう言って、ゆかりちゃんの赤い目印をどんどん取って行きました。
泣き出すゆかりちゃん、慌てる先生。
教室はちょっとしたパニックになりました。
コチサ
「入学して一週間目の事だからね、インパクトがあったでしょ。だから覚えてるんだ」
大藪君
「そうだなぁ。あの時はあれから親が呼ばれて、結構怒られたよ」
コチサ
「実はね、コチサあの時も何となく大藪君の気持ちがわかったような気がしてたんだ」
大藪君
「あぁ、あの頃はうまく説明できなかったけど、子供心に何か悔しかったんだよな」
コチサも大藪君も、母親が自分の為に長ーい時間をかけて、一つ一つの補助教材に名前を付けてくれている姿を見ていました。
大変な作業です。
だから補助教材の時間に、みんな胸を張って自分の補助教材を誇らしげに見せ合っていたのです。
でも、大竹ゆかりちゃんのは名前が無く、その代わりに「赤い目印」でした。
大藪君
「なんかさぁ、悔しくてさ。きっと名前を書くのが面倒だから、シール貼り付けたんだろうって。それをまた大竹が自慢している、「お母さんのアイデア」だとか言って・・・本当に自慢していいのは、夜なべして名前を入れてくれた親の補助教材だけだ・・・とか思ったんだろうな」
コチサ
「ゆかりちゃんが自慢した時ね、先生ね、苦笑いをしていたんだよ。あの時はわからなかったけど、今その意味が、なんとなくわかるような気がする」
大藪君
「親思いだったのかな、あんときの自分は」
コチサ
「うん、みんな親に愛されて育ってたからね」
大藪君
「そうだな。昼間は畑仕事。その疲れた姿を見てるのに、夜なべまでしての名前入れだろ・・・なんかそんな事が、大竹の赤い目印に対してあんな事したのかな」
コチサ
「コチサもそう思ってね・・・でも今考えるとやっぱりあれは良くない事だったよ」
大藪君
「あぁ、今なら本当にそう思う」
ゆかりちゃんのお母さんが、何で赤い目印をつけたのか本当の所はわかりません。
ただ面倒くさくて、楽な道を選んだのか?
もしかしたら手を怪我して文字が書けなかったのかも知れません。
またもっと他に理由があったのかも知れません。
ゆかりちゃんの自慢も、
「ほら、ゆかり、あなたのは名前じゃなくて「赤い目印」よ。きれいね」
とか言われて単純にそう信じ込んだのか?
何らかの事情で、字が書けなかったお母さんのアイデアに心から感謝をして胸を張ったのかはわかりません。
大藪君
「でもあそこで自分が暴れた事は何にも意味はなかったんだよな」
コチサ
「まぁ、敢えて言えば、世間の不条理に対するやり場の無い怒りってとこかな」
大藪君
「実はな、何の偶然か高校時代に大竹と付き合ってたんだよ」
コチサ
「おいおい」
大藪君
「ゆかりに言わせると、結局真相は親の怠慢以外、何ものでも無くて、ゆかりはうまく騙されたと怒ってたけどね。でもそれでも親なんだって、面倒くさくても、赤いシールを切り抜いて貼ってくれたことに感謝したいって言ってたよ」
コチサ
「そっか。ゆかりちゃんの方が大人だったわけだ。まぁそれでおあいこで良かったじゃん」
大藪君
「おあいこ?」
コチサ
「だって、大藪君、結局ゆかりちゃんに振られたんでしょ。赤い目印取ったバチが当たったんだね」
大藪君
「・・・・・」
大藪君も、ゆかりちゃんも、そしてコチサも、親に愛されていた。
それぞれに形は違っても、その愛し方はいつも精一杯全力で愛してくれたから、こうやって優しく時を振り返ることが出来る。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
コチサ
「そっか、赤い目印事件って、そんなドラマがあったんだね」
大藪君
「大竹は今、田中ゆかりって言うんだよ。大阪に嫁いでる。同窓会欠席の返事が来たよ・・・みんな自分の人生に忙しいんだよ。なかなか過去を懐かしがる気持ちにはなれないんだな」
だからぁ・・・
それは、単純に会費と場所のせいだって!
早く気づけよ、大藪ぅー
|