No.377 「携帯電話の使い方」 2004.2.6
 写真・・・玉藻公園1 写真・・・玉藻公園2

 それはお正月の6日の事でした。

 おせち料理にほろ酔い気分の人たちはすっかり姿を消し、世間はもう仕事モードに突入していました。

 この時になっても実家でゴロゴロし、お正月を満喫していたコチサですが、さすがに暇を持て余したのか、突然姉として、妹が仕事をしているお料理屋さんを「見学」しなくてはという使命感に目覚めました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 お父さんの軽トラに乗せてもらい、JR琴平駅まで運んでもらいました。

 さぁコチサの「ふるさと一人旅」のはじまりぃ、はじまりぃ〜(^-^)v

 写真・・・JR高松駅

 JR高徳線の数本は、一両編成のワンマン電車です。

 始発駅の電車には、お客さんはちらほら・・・

 コチサは4人がけの対面座席が全て空いている一画、進行方向窓際に座りました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ゴトンゴトン(^o^)□――□(^o^)

 電車はゆっくり走り出します。

 大きな山と時折のぞく水面のざわめき・・・

 景色が大きすぎるため、電車がいくら走っても、同じ風景が続きます。

 大自然の雄大さと、美味しい空気を感じて、最初の頃こそその景色に目を奪われていたコチサですが、だんだん飽きてきました。

 コチサ
 「この単調な電車に、まだまだ揺られなくちゃいけないのかい、来なけりゃ良かった^-^;」

 そしてコチサは、心地良い電車の揺れにいつしか・・・(_ _)Zzz

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 有り余る若さが体の中におさまり切れなくなって、声にさえ何とか外に出たいという気持ちが込められているような、そんな青春特有のはじける黄色い声が、コチサを夢から現実に引き戻しました。

 コチサ
 「ん?」

 いつの間にか、いくつかの駅を過ぎた電車は、ほぼ座席が埋まるくらいの混みようになっていました。

 コチサの座る4人掛けの席にも、3人組のセーラー服姿の女子学生が座っていました。

 コチサの存在など最初からいないかのように、キャピキャピワイワイ自分たちの世界で盛り上がっています。

 窓際に押しやられた感じのコチサは、とりあえずこの状況では、目的地までもう眠る事は出来ないだろうなぁと観念しました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 香川の女の子たちはみんな明るい子たちです( ^3^)/

 まるで、お笑いを聞いているようです。

 一人の話に、もう一人が突っ込み、突っ込まれた一人が言い返すと、3人目がボケる・・・

 コチサの4人掛けは、笑いの発信地になっていました。

 コチサ
 「おいおいここに香川県出身のコチサさんが、故郷に錦を飾ってんだぞ。サインぐらいせがまんかい(*^_^*)」

 と心の中では突っ込んでみたものの、この子たちの中でコチサは、全く意に介さない存在のようです。

 せめて「恋に破れた大人の女性が一人《傷心旅行》をしている」という物語を作って楽しんでくれることぐらいはして欲しいのですが・・・(^o^;

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 パンを3個平らげた女子学生1
 「あぁお腹がおきた」

 女子学生2
 「そりゃそうや、こうたもん全部食べればな」

 女子学生3
 「あんたら、さっきからなまりまくりやん」

 女子高生2
 「なにがぁ?うちら標準語をあやつる讃岐の三人娘やで」

 女子学生3
 「「こうた」とか「おきた」とかは、標準語やないでぇ」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 そういうとその少女ははじめてコチサの方を見て、にっこり笑いました。

 コチサの事を、別な町から来た異邦人と思ったようでした。

 (できれば、東京から来た「きれいなお姉さん」と思ってくれることを祈ったのですが^-^;)

 でもご存知のように、コチサも讃岐人なので、彼女たちの言葉使いにそんな違和感は感じなかったのですが・・・

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 女子学生1
 「じゃぁ調べてみよ」

 女子学生2
 「そや、それが早いでぇ」

 この子たちは、将来しゃべりの仕事をしたいのかな?

 アナウンス辞典を持って歩くなんて偉いじゃん。

 しかし出てきたのは、携帯電話でした。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 女子学生1
 「「お腹がおきた」は変換されへんで、じゃぁ方言や」

 女子学生2
 「「こうた」も買うの字にならへんで、これも方言や」

 ちなみに「お腹がおきた」とは満腹になったこと、「こうた」はもちろん「買った」のことです。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 コチサ
 「へぇー携帯電話で方言チェックできるんだね」

 女子高生1
 「ここらへんじゃ、みんなやってるでぇ、当たり前の使い方や」

 コチサ
 「勉強になったよ」

 女子高生2
 「お姉さんはどこ?沖縄?」

 コチサ
 「な、なんで決め付けるのさ(`_´メ)」

 女子高生2
 「ホリ深いやん。最初は中近東の人やと思たけど、日本語しゃべっとるから日本人やと思うてな」

 女子高生3
 「バカやなぁ、留学生かも知れへんやん」

 女子高生1
 「バカはどっちや、留学生がこんな町に来るわけないやん」

 女子高生2
 「そりゃそうやわ」

 そして大笑い・・・

 再びコチサの存在は蚊帳の外に置かれてしまいました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 だんだん町に近づいてきたのでしょう。

 電車から見える景色が、住宅街や建物に変わり、ビュンビュン過ぎて行きます。

 ビデオテープを早送りして見ているようです。

 そしてコチサの中では、反対に時間という景色が巻き戻しされるように、その景色の中に高校時代の自分を思い出しました。

 「箸が転げてもおかしかった」と言いますが、本当に箸が転げてもおかしかった時代でした。

 何をしても、何が起きても、夢や希望はゆるぎなく、同級生の冗談と笑いの中にきらめいていました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 コチサの携帯電話が振動しました。

 妹からのメールです。

 「今、屋島やでぇ」

 待ち合わせ場所に着いたという連絡です。

 時間的にいっても次の駅がコチサの到着駅のようです。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 女子高生1
 「あんた知っとる?このワンマン電車は、降りる時に料金を渡すんやで」

 女子高生2
 「知っとるよ、いつものことやん、何言ってるん?」

 女子高生3
 「ただ言ってみたかっただけやん、なぁ」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 女子高生はそう言って、降りる用意を始めたコチサに目で笑いかけました。

 初めての高徳線のワンマン電車に乗ったコチサに、押し付けがましくなくアドバイスをしてくれたようです。

 あの頃は誰もお化粧なんかしてなかったし、携帯電話も持ってなかった・・・

 でも讃岐の女子高生の優しさは今も昔も変わらないね(^o^)

 少しだけ良い気分で、ニッコリ笑ってコチサは降車口に向かいました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 アドバイスに従って、小銭入れからお金を出す用意を・・・

 えっ?

 「お金って・・・高松駅で切符買ってるじゃん(;o;)」

 かつがれた事に気がついて振り向くと、彼女たちは笑顔で手を振っています。

 でもそれがなんとなく悪い気がしなくて、少しだけ良い気分だったのが、とても良い気分になってしまった事が不思議でした。

写真・・・JR屋島駅1 写真・・・JR屋島駅2

 若さと笑顔・・・

 そしてそこに溜め込まれたたくさんの夢と希望・・・

 人を元気にさせてくれるパワーは、そこに隠されている気がしました。

 アクセント辞典から携帯電話へ・・・

 コチサもこれからは活用させてもらうことにしました(^^)

前のニュースへ                          次のニュースへ