No.387 「創業1611年」 2004.3.16
 イラスト・・・洋服

 親分
 「これあげるよ」

 コチサ
 「サンキュー、ん?何これ?」

 親分
 「松坂屋の商品券」

 コチサ
 「うわー太っ腹、い、一万円もあるよ」

 親分
 「良かったら使いなよ」

 コチサ
 「?」

 親分
 「ん?」

 コチサ
 「なんか怪しい・・・」

 親分
 「じゃぁやらない」

 コチサ
 「いや、取りあえずもらっておくよ」

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 もらったのは、確かに松坂屋デパートの商品券1万円分でした。

 ラッキー(^O^)

 でも・・・

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 コチサ
 「なにこれ?昭和62年って書いてあるよ」

 親分
 「あぁ、家の掃除をしていたら押入れから出てきたんだよ。多分使えると思うよ」

 コチサ
 「ははーん、そういうことか」

 親分
 「な、なんだよ?」

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 「食べ放題は行かない」
 「歳を取ったら無精ひげは絶対に生やしてはいけない」
 「人と食事に行ったら絶対に自分が支払う」
 「う○ちは左手で拭く」
 「背中にはものさしを入れてでも背筋は伸ばして歩く」

 など、昭和20年代生まれの独自のダンディズムを実践する親分にとって、商品券でモノを買うのは美学が許さなかったようです。

 加えて、今から20年近くも前の商品券じゃなおさらそれを使おうという気にはならなかったようです^-^;

 かといってそれを捨てるにはもったいない。

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 そこで、

 「食べ放題は大好き」
 「歳はとらない」
 「人と食事に行ったら必ずご馳走になる」
 「う○ちは拭かない」
 「痒い時くらいしか、背中にものさしを入れない」

 という正反対の美学を実践するコチサにおこぼれがまわってきたようです(^_^;

 商品券には、使える場所として「銀座松坂屋」「上野松坂屋」と記載されています。

 今なら「全国共通百貨店券」として、ほとんど全国の百貨店で使えるものですが、当時はブランドニーズが大きかったので、これでも充分流通可能だったようです。

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 さて早速、買い物に出かけるコチサ。

 さすがに迷わず「上野松坂屋」を選んでしまいました^-^;

 創業1611年(慶長16年)、会社創立1910年(明治43年)、従業員数 3.991人(平成15年2月28日現在)という歴史と伝統を感じさせるマンモス百貨店の中でも上野店がその老舗中の老舗である事は、建物の外観からも明らかです。

 現在の内装にこだわるきらびやかなデパートのイメージとは一線を画した佇まいです。

 コチサ
 「なんか寛いじゃうなぁ、東京のデパートじゃないねぇ〜これは、実家に帰った感じだよ^-^;」

 で、店内を隅々までウロウロすること2時間・・・

 1万円という予算もあり、店舗の中でもひときわ庶民的な香りを漂わせている、若者向けブランドショップに狙いを定めました。

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 コチサ
 「こんにちは」

 店員のお姉さん
 「いらっしゃいませ」

 コチサ
 「少し見させていただきます」

 お姉さん
 「はい、ごゆっくり」

 コチサ
 「ときに・・・」

 お姉さん
 「はい?」

 コチサ
 「天井、低いですね」

 お姉さん
 「えぇ、建物が古いもので・・・」

 コチサ
 「歴史的建造物ですね」

 お姉さん
 「いや、ただ古いだけです。お客様が見られている部分はまだこの程度ですけど、裏に一歩入って、私たちの休息室やロッカールームなんかは、いつ壊れてもおかしくない感じです」

 コチサ
 「創業1611年!会社創立1910年!!!」

 お姉さん
 「はい?」

 コチサ
 「この松坂屋さんの歴史です。社員の方なら覚えていなくちゃいけませんぞ」

 お姉さん
 「はぁ・・・、でも私は派遣ですから・・・お客様は、何か特命の調査員か何かの方でいらっしゃいますか?」

 コチサ
 「いや、ただの客です・・・それも商品券の(;-;)」

 お姉さん
 「何を言ってらっしゃいます、お客様。商品券で買われるお客様と現金で買われるお客様に違いなどございません。そんな言い方はなさらないで下さい」

 コチサ
 「でもさ・・・」

 お姉さん
 「はい?」

 コチサ
 「古いんだぁ」

 お姉さん
 「この建物がでございますか?」

 コチサ
 「いや、商品券がさぁ」

 お姉さん
 「古い?どういうことでございますか?商品券に古いも新しいもございませんけど・・・」

 コチサ
 「そんなこと言っちゃってさ、見て驚くなよ。ほらっ!」

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 少し黄ばんだその商品券を手にして、一瞬絶句するお姉さん。

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 お姉さん
 「昭和62年ですね^-^;」

 コチサ
 「使える?」

 お姉さん
 「大丈夫・・・だと思います・・・あの・・・一応確認してまいりますので、暫くお待ちいただけますでしょうか?」

 コチサ
 「了解!」

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 「おいなんだこれは?」
 「本物か?」
 「取りあえず本部に問い合わせてみよう」
 「まさか偽ものってことは?」
 「たかだか1万円のためにこんなもの作らないだろ」
 「でもこの平成の世になんで昭和62年なんですか?」
 「きっと物持ちの良い人なんだろ」
 「だったら何故、今になって使おうと?」
 「そういう人だったら取って置けばプレミアがつくって考えるんじゃ・・・」
 「じゃぁその可能性が無くなったと判断したんだろ」
 「てっことは、まさかうちが危ないって・・・」
 「ま、まさか?」
 「でもこのご時世だし、今この昭和62年の金券が出回るのは何か作為的なものが・・・」
 「わからん」

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 もしかしたら裏では、こんな喧々諤々の議論が繰り広げられているかも知れません。

 コチサは「他意は無いんだよ」と言ってあげたい気分でしたが、それよりも先ずこの商品券が認められるほうが大きな問題だったので、推移を見守る事にしました^-^;

 そして待つこと15分・・・

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 お姉さん
 「お待たせしました。おめでとうございます。この商品券、使えます」

 コチサ
 「ありがと^-^;」

 お姉さん
 「それにしても、よくこれほど古いのを持っておられましたね」

 コチサ
 「頂きものでね^-^;、本当の持ち主は美学があって来られなかったんだよ」

 お姉さん
 「はぁ・・・」

 コチサ
 「ときにお姉さん」

 お姉さん
 「(ギクッ)また何か?」

 コチサ
 「昭和62年の1万円って、今ではどのくらいの貨幣価値になるのかな...?」

 お姉さん
 「さぁ?・・・でも残念ながらその商品券は額面通りにしかなりませんよ^-^;」

 コチサ
 「し、知ってらい^-^; アハハ」

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 ということで、コチサお買い上げ1万1千円也。

 千円は自腹でしたが、ちょっと得した冒険の旅でした。

 さぁ皆さん、押し入れの奥の奥、ちょっと覗いてみて下さい。

 もしかしたら忘れてしまった冒険の旅が待っているかもしれません。

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 親分
 「どうだった、この間の商品券?」

 コチサ
 「それがさ、あんな古いのもう使えませんてさ、全く恥かいちゃったよ(`_')」

 親分
 「そりゃ悪いことしちゃったね、すまんすまん」

 コチサ
 「すまんじゃないよ。銀座まで電車賃かけて行ったのに」

 親分
 「銀座まで行ったのかい?」

 コチサ
 「そりゃそうでしょ、せっかくいただいた商品券だもん。上野でお茶を濁すわけにはいかないでしょ」

 親分
 「よく意味がわからんけど・・・」

 コチサ
 「とにかくさ、これじゃ食事くらいご馳走してくれなくちゃ始まらないよ」

 親分
 「ますます意味がわからないけど・・・まぁ食事くらいなら」

 コチサ
 「じゃぁ食事で妥協ってことで(^o^)」

 親分
 「ところで、良いシャツ着てるね」

 コチサ
 「わかる(^o^)?おニューだよおニュー、似合う?」

 親分
 「似合うよ、いつ買ったの?」

 コチサ
 「昨日だよ昨日、上野松坂屋で・・・あっ(>_<)」

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