コチサ
「ところで最近、お母さまのお加減はいかがですか?」
会長
「えぇおかげさまで元気になって、我がまま言っていますよ」
コチサ
「それは良かった(^o^)」
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時々話しに伺う会長のお母さまに、会長はどうも頭が上がらない様子です。
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会長
「どうも親子でも性格は似ていないようで・・・」
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キビキビ・テキパキというお母さまと、穏かでのんびりとした息子では、いくつになってもお母さまに分があるようです。
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会長
「母親から見れば、私ははがゆいんでしょうね」
コチサ
「かもね・・・コチサからみてもはがゆい時があるし^-^;」
会長
「そ、そーなんですか?」
コチサ
「冗談だよ(*^_^*)」
会長
「自分と性格が似ても似つかない子になってしまうってことは、親は残念なのでしょうかね」
コチサ
「なんで?」
会長
「自分の教育どおりに育たなかったってことになりませんかね」
コチサ
「教育と性格は別でしょ。それに話に聞く会長のお母さまと会長は、性格的にも正反対とは思えないけどね^-^;」
会長
「それはコチサさんが、私の母親を良く知らないから・・・」
コチサ
「そなの?」
会長
「そうですよ。こうと決めたらテコでも動かないんですから・・・」
コチサ
「なるほど、それは違うかも・・・会長はコロコロ動くよね^-^;」
会長
「そ、それは失敬ですよ^-^;」
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そういえばコチサの性格も、お母さんお父さんのどちらにも似てない。
(まぁ似てたら大変だけどね^-^;)
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会長
「じゃぁ、コチサさんの家の代々受け継がれてきた性格は、コチサさんの代で途切れてしまうんですかね?」
コチサ
「かもね」
会長
「悲しいですね、由緒あるコチサ家の歴史が・・・」
コチサ
「性格なんて個人の問題だから、代々受け継ぐもんじゃないし、全然気にならないよ」
会長
「そーなんですか?」
コチサ
「でも教育は別だよ。コチサ家の人間として、親が心血を注いで教えてくれた事は、性格とは関係なく受け継がれていくんだよ。だからそういう意味でコチサは、お父さんとお母さんの育て方をしっかり受け継いで育ってきたし、コチサ家の血筋は絶えないんだよ」
会長
「そういうもんですかね。私なんか性格も教育も受け継いでないから、会長家の伝統は私の代で終わりでしょうね」
コチサ
「そんな事ないと思うよ^-^;」
会長
「?」
コチサ
「会長家の一番の基本方針は【人に迷惑をかけない】じゃないの?」
会長
「そうです、よくわかりますね。母は口をすっぱくしてそう育ててくれました」
コチサ
「会長、人に迷惑をかけないじゃん」
会長
「そうですか、人間生きていればいろいろ迷惑をかけちゃうもんですけど・・・それに人に迷惑をかけないって言うのはありふれていて、別に我が家だけが特別とは・・・」
コチサ
「会長家の人に迷惑をかけないっていうのは、そういう意味じゃないと思うんだよね」
会長
「・・・」
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会長のヤツ、コチサに嘘をつきやがった(`_')
コチサが「お母さまは元気ですか?」と聞いたとき、顔色一つ変えずに「元気すぎて困っています」みたいな事をいいやがった^-^;
お医者さまから、すでにあと二ヶ月などと余命を宣告されていたことなど、おくびにも出しやがらなかった^-^;
チキショー、コチサは真に受けてしまったぜ(`_')
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でも・・・
コチサがそれを知っていたところで、どうなっていたっていうんだい。
それはコチサにとって「迷惑」じゃないけど、「無力」を感じることにしかならない・・・
もし会長の立場がコチサだったらどうだろう・・・
コチサ家の基本方針は【人に嘘をつかない】です。
(じゃぁコチサは全く守ってないじゃんというお叱りは置いといて・・・^-^;)
もし「どうですか」と聞かれれば、「いやちょっと・・・」と言葉を濁したかもしれません。
それは嘘にはならないし、相手への負担もそれほどにはならないと思うから・・・
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でも会長は違いました。
いつもは嘘などつけば、すぐ顔に出てばれてしまう会長が、平然と嘘をつきました。
それは会長の中で、「嘘をつかない」ことよりも「人に迷惑をかけない」方が大事だという会長家の教育が、沁み込んでいたからだと思います。
会長家の【人に迷惑をかけない】というのは、【他人に心の負担をかけない】という事と同じようです。
会長のお母さまの具合が良くないことをコチサが知ったら、コチサの心に少なくても負担を負わすことになる・・・そんなことは会長家の人間として最もしてはいけないことだ・・・
会長は、そういうお母さまの教育方針を体の芯まで受け入れていたから、平然と嘘がつけたのでしょう。
会長家の伝統は紛れも無く、会長がしっかり受け継いでいたのでした。
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コチサ
「会長、それはそれでいいんだけど、コチサとしては寂しかったよ」
会長
「・・・」
コチサ
「お会いしたことは無いけど、コチサにとっては会長のお母さまは紫蘇ジュースの作り方を教えてくれたり、会長家の逸話を面白おかしく教えてくれたり・・・とっても身近に感じていた人だったんだよ」
会長
「すみません」
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会長のお母さまは入院を拒否して、ずーと自宅で過ごしていたそうです。
でも、自宅にいる間は、これっぽちも病人の様子は見せなかったといいます。
ある朝、「今日から入院する」と言い出し、自分から荷物をまとめ、病院に入りました。
そして、その晩・・・
本当に、誰にも迷惑をかけない最期だったそうです。
自らが体で会長家の伝統を実践して見せたお母さんは、今、全ての会長家の歴史を会長に委ねても良いと判断して、静かに舞台から降りていきました。
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会長、コチサは何も言えないけど、一つだけ知っている事があります。
それは、
「いくつになっても、親との別れは辛い」
ということです。
元気が少しだけでも戻ったら、焼肉をお腹いっぱいコチサが食べてあげるね^-^;
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追記:
静かな、本当に静かなところで涙を流すと、
涙が頬を伝う音が聞こえるのを知っていますか?
それは、擬音としては文字にできない、
とても不思議な音です。
でもその言葉や文字にできない音を知ることで、
またひとつ、
人は人にやさしくなれる事を学ぶのですね。