今年最後の更新は、どんなお話しにしようか?
恒例の「コチサ10大ニュース」にしようと思ったけど、上位に楽しい話が並びそうもないし^-^;
・・・そんな事を考えながら、事務所のエレベータに乗っていると、
「そういえば、9階のおばあちゃん・・・」
と思い出しました。
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コチサが、そのおばあちゃんに気がついたのは、2年ほど前です・・・
朝、いつものように眠い目で事務所にやってきて、エレベーターを待っていると、ひとりのおばあちゃんに呼び止められました。
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おばあちゃん
「すみません、私の家、何階でしたっけ?」
コチサ
「へっ?」
おばあちゃん
「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」
コチサ
「そう言われても、コチサも困ったなぁ〜」
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コチサが戸惑っていると、フロントの女性が駆けつけてきました。
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フロント
「おばあちゃん、お部屋わからなくなったのね。おばあちゃんのお部屋は9階よ」
そう言って、エレベーターを開けて「9」のボタンを押してあげました。
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おばあちゃん
「ありがとうございます。なんだか、自分の家がわからなくなっちゃったんですよ」
おばあちゃんは、ニコニコと手を振って、エレベーター乗って行きました。
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その後、だいたい月に一回か二回、多い時は週に一回程度の頻度で、おばあちゃんをみかけました。
おばあちゃんは、エレベーターかフロントのそばにいて、いつも誰かに
「すみません、私の家、何階でしたっけ?」
「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」
そう言っていました。
ほとんどの人は、おばあちゃんを知っているようで、みんな笑顔で
「おばあちゃんのお部屋は9階よ」
そう言ってエレベーターのボタンを押していました。
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一度状況がつかめれば、コチサも慣れたものです。
コチサ
「やぁ、おばあちゃん、こんにちは。おばあちゃんのお部屋は9階ですよ」
そう言って何度か、エレベーターまで誘導したものです。
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9階まで昇ったおばあちゃんが、無事に自分の部屋までたどり着けたのかは、誰も知りません。
でも、9階まで行ったおばあちゃんは、おばあちゃんがいなくなって慌てて捜しに来た家族に見つけられ、無事部屋に戻っていった・・・「9」のボタンを押した人たちは、みんなそう思っています。
自分たちが出来ることは、一階に下りてきてしまったおばあちゃんを、エレベーターまで誘導して「9」のボタンを押してあげること・・・それ以上でも以下でもない・・・みんながわかっていました。
9階まで一緒に行ってあげて、ご家族の方に引き渡すこともしなければ、一階で困っているおばあちゃんを放っておくこともしません。
9階まで付いて行ってしまえば、ご家族の方は恐縮し、おばあちゃんは「世間に迷惑をかけないように」と自由な散歩をさせてもらえなくなっちゃうかもしれません。
困っているおばあちゃんを放っておけば、家族が1階まで捜しに来る事になって、やはりおばあちゃんの今後の活動に障害が起きるかもしれません。
コチサは、この自然に生まれた「素敵な距離感」が、とても良いものだなと思いました。
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「そういえば、9階のおばあちゃん・・・最近見ないなぁ」
そう気がついたのは、おばあちゃんに会わなくなってから、どれくらい経った頃だったでしょう?
その後、結構気にして過ごしていたのですが、会うことはありませんでした。
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3ヶ月が半年になった頃、コチサはわかりました。
「もう、あのあばあちゃんに会うことはないな」
フロントのお姉さんや、このビルの住人たち・・・おばあちゃんを「9」のボタンで案内したことのある人たちも、それぞれ自分の時間の中で、
「もう、あのあばあちゃんに会うことはないな」
と気がついたはずです。
コチサより早く気がついた人もいれば、ずーと後に気がついた人もいると思います。
「あのおばあちゃん、どうしましたかね?」
そんな会話がなされないことは、みんなわかっています。
毎日、エレベーターに一緒に乗り合わせる人たち・・・「9」のボタンが光っていると、
「もしかしたら、この中に、あのおばあちゃんのご家族が乗っているかもしれない」
そう思います。
そして、
「やっぱり9階まで案内して、ご家族に会わなくて正解だったんだ」
そう思いました。
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おばあちゃんは、今もどこかで
「すみません、私の家、何階でしたっけ?」
「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」
そう言っているかもしれません。
そしてそのそばにはきっと、優しくおばあちゃんを誘導してくれる人がいるはずです。
コチサたちが「9」のボタンを押した時よりは、もっと親密にもっと深くまで、おばあちゃんとお付き合いをすることになった人たちが・・・
そう思う事にしています。
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今年もまた、たくさんの人たちとの出会いがありました。
新しい出会いを思い出しながら、年賀状リストに追加していきます。
でも、毎年出す年賀状の数って、新しい出会いの数だけ増えるというわけでもありません。
いつもそんなに変わらないのです。
どうやら出会いの数だけ、別れがあるようです。
除夜の鐘を聞きながら、そんな人たちを思い出して、その人たちの幸せを心から願ってみるのも、一年の振り返り方のひとつかもしれません。
さようなら2008年くん(/_;)/~~