No.711 「9階のおばあちゃん」 2008.12.27
 今年最後の更新は・・・

 今年最後の更新は、どんなお話しにしようか?

 恒例の「コチサ10大ニュース」にしようと思ったけど、上位に楽しい話が並びそうもないし^-^;

 ・・・そんな事を考えながら、事務所のエレベータに乗っていると、

 「そういえば、9階のおばあちゃん・・・」

 と思い出しました。

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 コチサが、そのおばあちゃんに気がついたのは、2年ほど前です・・・

 朝、いつものように・・・

 朝、いつものように眠い目で事務所にやってきて、エレベーターを待っていると、ひとりのおばあちゃんに呼び止められました。

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 おばあちゃん
 「すみません、私の家、何階でしたっけ?」

 コチサ
 「へっ?」

 おばあちゃん
 「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」

 コチサ
 「そう言われても、コチサも困ったなぁ〜」

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 コチサが戸惑っていると、フロントの女性が駆けつけてきました。

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 フロント
 「おばあちゃん、お部屋わからなくなったのね。おばあちゃんのお部屋は9階よ」

 そう言って、エレベーターを開けて「9」のボタンを押してあげました。

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 おばあちゃん
 「ありがとうございます。なんだか、自分の家がわからなくなっちゃったんですよ」

 おばあちゃんは、ニコニコと手を振って、エレベーター乗って行きました。

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 その後・・・

 その後、だいたい月に一回か二回、多い時は週に一回程度の頻度で、おばあちゃんをみかけました。

 おばあちゃんは、エレベーターかフロントのそばにいて、いつも誰かに

 「すみません、私の家、何階でしたっけ?」

 「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」

 そう言っていました。

 ほとんどの人は、おばあちゃんを知っているようで、みんな笑顔で

 「おばあちゃんのお部屋は9階よ」

 そう言ってエレベーターのボタンを押していました。

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 一度状況がつかめれば、コチサも慣れたものです。

 やぁ、おばあちゃん・・・

 コチサ
 「やぁ、おばあちゃん、こんにちは。おばあちゃんのお部屋は9階ですよ」

 そう言って何度か、エレベーターまで誘導したものです。

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 素敵な距離感・・・

 9階まで昇ったおばあちゃんが、無事に自分の部屋までたどり着けたのかは、誰も知りません。

 でも、9階まで行ったおばあちゃんは、おばあちゃんがいなくなって慌てて捜しに来た家族に見つけられ、無事部屋に戻っていった・・・「9」のボタンを押した人たちは、みんなそう思っています。

 自分たちが出来ることは、一階に下りてきてしまったおばあちゃんを、エレベーターまで誘導して「9」のボタンを押してあげること・・・それ以上でも以下でもない・・・みんながわかっていました。

 9階まで一緒に行ってあげて、ご家族の方に引き渡すこともしなければ、一階で困っているおばあちゃんを放っておくこともしません。

 9階まで付いて行ってしまえば、ご家族の方は恐縮し、おばあちゃんは「世間に迷惑をかけないように」と自由な散歩をさせてもらえなくなっちゃうかもしれません。

 困っているおばあちゃんを放っておけば、家族が1階まで捜しに来る事になって、やはりおばあちゃんの今後の活動に障害が起きるかもしれません。

 コチサは、この自然に生まれた「素敵な距離感」が、とても良いものだなと思いました。

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 「そういえば、9階のおばあちゃん・・・最近見ないなぁ」

 そう気がついたのは・・・

 そう気がついたのは、おばあちゃんに会わなくなってから、どれくらい経った頃だったでしょう?

 その後、結構気にして過ごしていたのですが、会うことはありませんでした。

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 3ヶ月が半年になった頃、コチサはわかりました。

 「もう、あのあばあちゃんに会うことはないな」

 「もう、あのあばあちゃんに会うことはないな」

 フロントのお姉さんや、このビルの住人たち・・・おばあちゃんを「9」のボタンで案内したことのある人たちも、それぞれ自分の時間の中で、

 「もう、あのあばあちゃんに会うことはないな」

 と気がついたはずです。

 コチサより早く気がついた人もいれば、ずーと後に気がついた人もいると思います。

 「あのおばあちゃん、どうしましたかね?」

 そんな会話がなされないことは、みんなわかっています。

 毎日、エレベーターに一緒に乗り合わせる人たち・・・「9」のボタンが光っていると、

 「もしかしたら、この中に、あのおばあちゃんのご家族が乗っているかもしれない」

 そう思います。

 そして、

 「やっぱり9階まで案内して、ご家族に会わなくて正解だったんだ」

 そう思いました。

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 おばあちゃんは・・・

 おばあちゃんは、今もどこかで

 「すみません、私の家、何階でしたっけ?」

 「散歩に出たら、自分の家がわからなくなっちゃんですよ」

 そう言っているかもしれません。

 そしてそのそばにはきっと、優しくおばあちゃんを誘導してくれる人がいるはずです。

 コチサたちが「9」のボタンを押した時よりは、もっと親密にもっと深くまで、おばあちゃんとお付き合いをすることになった人たちが・・・

 そう思う事にしています。

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 今年もまた・・・

 今年もまた、たくさんの人たちとの出会いがありました。

 新しい出会いを思い出しながら、年賀状リストに追加していきます。

 でも、毎年出す年賀状の数って、新しい出会いの数だけ増えるというわけでもありません。

 いつもそんなに変わらないのです。

 どうやら出会いの数だけ、別れがあるようです。

 除夜の鐘を聞きながら、そんな人たちを思い出して、その人たちの幸せを心から願ってみるのも、一年の振り返り方のひとつかもしれません。

 さようなら2008年くん(/_;)/~~

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