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FILE29-みっちゃんのタッチタイピング
28/30days
コチサのペッパーフレンズ●益田沙稚子 

シルエットになった黒い髪のコチサ


差別表現の撤廃という事で既存の用語は改められ「タッチタイピング」という言葉が浸透してきました。みっちゃんのタッチタイピングの腕はまだまだ雨垂れ状態です。みっちゃんは、コチサと同い年の全盲の女性です。「言葉が変わってもやることは同じなのにね」と毎日キーボードに向かって練習しています。
みっちゃんは女優です。視覚障害者の劇団「こうばこの会」の看板です。コチサは時々公演のMCのボランティアをしています。みっちゃんが「あたしといるとコチサも電車は半額だし、気を使って貰えるし得するよ」と言って劇団に誘ってくれたのです。みっちゃんとの距離の接近は、そのまま障害者の方との心の距離の接近に繋がりました。
ボランティアの男性で優しい人がいると早速「どんな顔?」って聞いてきます。みっちゃんは10年前から全盲になったので、それ以前の俳優さんの名前で例を挙げないといけません。「そうだな、柴田恭平さん」「へぇ〜まぁまぁじゃん」「コチサは誰に似ているの?」「山口百恵さん」「この前、吉永小百合って言わなかった?」嘘も方便です。みっちゃんの目下の悩みは洋服です。流行が解らないし、買い物付き合ってくれるボランティアさんの感性に依存するしかないからです。「いっそ裸でいれば」「そうねコチサよりおっぱい大きいし」
みっちゃんがタッチタイピングを始めたのは、ただコチサにメールを送りたいからだそうです。現状ではその他の事はコンピュータは意味を持たないそうです。モニターもいらないと言いましたが、それは教える方に無理があるとなだめました。みっちゃんのタッチタイピングは、コチサへのエール、友情の証です。
「こうばこの会」の女優みっちゃんは、視覚障害者の女優ではありません。女優が視覚障害者だっただけのことです。是非ステージを覗いて下さい。みっちゃんがいます。


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