「コチシム」第5章育成作品

第5章の仮題と育成結果です

◆第5章を振り返る

 第5章は、大都会東京で紆余曲折しながらもしかっりと将来を定め、生き抜く決心を固めるコチサがテーマでした。
 東京に出て、カルチャーショックを受けながらも素朴さ一途さを失わないコチサを綴ってもらうものでしたが、設定期間が短かったせいか、第4章を引きづったり、第6章に踏み込んでしまったりの混乱が見られました。
 その中で育成作品は、シンプルに淡々と成長を綴りコチサの内面心理がよく出ていました。(必要以上にコチサがいい娘なのも気に入りました)
 寸評にも書いたけど、最近は最初から「育成作品」を目指さない娯楽作品が多くなって来ました。今後は、エンジョイ派と真摯派に分かれていくのかしら?
そして、今回もたくさんのご応募ありがとうございました。
第5章の課題は以下のようなものでした。
◆タイトル:
第5章「そして上京」

◆テーマ:
 大都会東京は、コチサを様々の甘い誘惑で迎え入れました。右も左も解らないコチサはまさに綱渡りをする赤ん坊、いつどちら側に転げ落ちるか解らない細い道を歩きだしました。
しかし、あの手この手で罠を仕掛けた東京も、ついにコチサの素直さ、一途さに負けたのか、ゆっくりとチャンスの扉を開けてくれはじめました・・・・・・
今回は、戸惑いながらも生活の糧を見つけ、無事アナウンス学校の門をくぐるまでを爽やかに演出して下さい。

◆イベント:
・「カントリーガール」
・「大都会に一陣の疾風」
・「お嬢さん、モデルになりませんか−危機一髪コチサ」
 の3つのイベントをうまく造って絡ませてください
(全部をむりやり入れなくても結構です)


◆参考になる実在コチサ:
有名になったときにリポーターにばれる可能性のある以下の項目は実在コチサが提供するデータを使用して下さい
・紆余曲折のアルバイト先は証券会社だった
・お父さんが山ほど「うどん」を抱え、会社に挨拶に来た
・最初の「声」の仕事は「区民番組」の区民レポーター
・・住居は憧れ(当時)のワンルーム(一応マンション)

◆第5章の選抜作品の紹介

(北海道のリボンさんの作品です)

時代が変わっていく・・・・・・・
佐知子さんの中で、激変する時代に取り残されていく焦燥感が、フツフツと沸き上がってきました。

フィリピンの民主化革命の映像ビデオを、生中継と勘違いし、東京行きを決めてからは、両親への説得の毎日でした。
大学に退学届けを出せば、父親が復学届を出す。
イタチごっこが続きました。

天皇陛下が崩御されました・・・・
消費税が実施されました・・・土井たか子さんが戦っています・・・・
歌手の美空ひばりさんがお亡くなりになりました・・・・
アメリカのレークプラシッドのスピードスケートで橋本聖子さんが日本女子初の優勝を飾りました・・・・
参議院通常選挙では、「マドンナ旋風」が吹き荒れ、たくさんの女性が、国会に送り込まれました・・・・・

女性が頑張っている・・・・
佐知子さんの焦りも頂点に達しました。

おばぁちゃんに泣きついての一大家族会議の結果は・・・・・父親を説得できず・・・・・勘当でした。

それでも佐知子さんは、「話すこと」に生き甲斐を持ち続け、東京に向かいたいと思うのでした。
都会は、純真な若い希望を食べて増殖していく街です。
佐知子さんが、食べられてしまうのは、時間の問題のように思われました。

お父さんが、故大平元首相の地盤だったため、口を利いてくれる人がいました。
おかげで、ワンルームながら、住むところも見つかりました。
バブル末期の証券会社にも、アルバイト先を得ることが出来ました。

新宿の人混みにボーとしてしまった時、いきなり腕をつかまれ、
「いい仕事があるから、一緒に行こう!」
と、車に乗せられそうになりました。
佐知子さんは、驚きのあまり声が出ません。この街ではそんな光景は日常茶飯事なことで、誰も助けてくれません。
悪代官に連れ去られる村娘は、哀れ遊郭へ・・・・・・
こんな時、テレビだったら矢七の風車が・・・・・

ヒュ〜、バシッ!
「痛てぇ誰だ?」
飛んできたのは、冷凍うどん。
うまく相手の頭に当たり、ひるんだ隙に佐知子さんは逃げ出しました。
追いかける、追手に立ち向かい、
「まだ、冷凍麺は山ほどあるじょぉ」
と叫んだお父さんに、佐知子さんは涙が止まりませんでした。

狭いワンルームマンションのフローリングの上に毛布一枚で眠るお父さん。
佐知子さんの薦めも聞かずに、ベットは佐知子さんに明け渡して・・・・・・

それからの1年間。
佐知子さんは、死にものぐるいでアナウンス学校に通い、誰よりも練習しました。
人生の中で、こんなに頑張ったのは過去にも先にも初めてのことです。
訛りの克服も、アクセント辞典を一頁、一頁塗りつぶしました。
着るものも、お化粧も少しずつ、あか抜けて来ました。
もう、人買いに襲われる心配もありません。
お友達も出来ました。
同じ夢を追う仲間たちは、時には足を引っ張り合うけど、気の置けない友人達です。

アルバイト先の証券会社でも、お父さんの持ってきてくれたうどんのおかげで「讃岐のさっちゃん」と、可愛がられています。
順風満帆です。


バブルが弾けました。
「証券不祥事」という名称で、様々な実体が明るみに出てきました。
「損失補填」「一任勘定取引」・・・そして「改正証券取引法」の可決。
もともと実体のない、アルバイト社員の佐知子さんの居場所はありませんでした。
首になりました。

「どうしたらいいの?」
洋服も、化粧品もほとんどローンです。
道は2つに分かれていました。
「話すこと」にこだわらず、楽しいことをして暮らしていく。
この街は、そんな夢を持たない人間が気楽に生きながらえるには、最大限の協力を惜しまない街です。
「Santa Fe」が今、売れてるし、いざとなれば「Kochisa Fe」を出すことも出来る・・・・・・
そして、もう一方の選択枝・・・・
「話すこと」で生きていく。
若い夢を食べて成長するこの街にとっては、それは街全体の怒りを買う行為です。
「食べていけるだろうか?」
そんな、生きることの初歩的な事が大問題になるほど、変わり身の早い街です。
・・・・・・・・・・・

お父さん・・・・・
お母さん・・・・・
おばぁちゃん・・・

 お父さん、お母さん、おばあちゃん、妹、弟(そういえば、妹弟に名前が無いですね)元気ですか?
 佐知子も元気です。
 例の事件で、会社を辞めてから生活は苦しいけど、アナウンス学校の先生がいろいろな「話す」アルバイトをくれて・・・ 単発だけど練習になるし。
 だから心配しないでください。
 それから、甘えるようなこと言って申し訳ないんだけど、お米だけはこれからも少しずつでいいから送り続けてください。
 やっぱりお米はうちで作るのが一番おいしいから・・・(本当はお米代の節約だけど、少しだけ甘えることにします)
 佐知子は心配してくれる人がいる、という事がどんなに心強いか知ってます。
 お父さん、お母さん、おばあちゃんのいる限り、誰にも負けません。
 安心していてください。
 それから、佐知子の声がテレビで流れることだってきっとあるから、うちでもそろそろビデオデッキを買った方がいいよ。
 (坂上南の香川電気のおじさんがよく知ってると思うから、ちゃんと聞いてから買うんだよ)
 そろそろ、稲刈りの時期ですね。
 今年は組合で買った機械を早めに回してもらって下さい。そうでないと去年みたいに結局手作業になっちゃうから。
 体だけには気を付けて下さい。
 おばぁちゃんはもう田圃にでたらあかんよ。

 この時、区民レポーターのアルバイトで細々食いつないでいる佐知子さんは、実家のビデオデッキが役に立つ日が近づいていることを、まだ知らない。


◆コチサの寸評

ちょっと胸が熱くなったよ。
コチサ、いい子になったね。
リボンさんは、初めてのメールがいきなりこの投稿だったから実は性別も年齢もよく解らないけど、もしかして女性の方かもね。
なんかそんな気がする。
短いけど「東京」の街の部分に実感がこもってますよね。それと最後の「手紙」の部分は「ほろっ」と来てしまいました。
この育成作品のおかげで、「コチシム」が少し王道路線に戻って来た気がします。
あと、最近よく思うんだけど、コチサの情報が発表している以上に漏れている気がする・・・・
「どきっ」とすることがあるけど、みんなあくまで創作だよね。