「コチシム」第8章育成作品

第8章の仮題と育成結果です

◆第8章を振り返る

 地獄の特訓を経てプロとしての自覚を持ったコチサのCMデビューが中心の課題でした。
 CMナレーションの仕事こなしながら、ここで大きく伸びていくのか、またまた壁にぶつかるのか、波瀾万丈なコチサストーリーをお願いしました。
 一方この章が位置的に波風の少ない章に位置していたため、応募作品にはオリジナルに趣向を凝らした作品を多くいただきました。
 「コチシム」作成者の発想の広がりには毎回頭が下がる思いです。
第8章の課題は以下のようなものでした。
◆タイトル:
第8章「CMデビュー」

◆テーマ:
 なんと初めての仕事が大手の仕事、そして大物タレント「ゴクミ」さんのバックでのナレーションという仕事が舞い込んでしまいました。
 これは大変、果たしてビギナーズラックで終わるのか、今後もメジャー路線で生き残れるのか、プレッシャーのかかる大一番を前にしたコチサを中心にその後の運命に流転するコチサを描き出してください。

◆イベント:
・ 「ゴクミのバックで−ぶち当たる才能の差」
・ 「連敗オーデション」
・ 「大町君のエッチな声をコチサが」等
 の3つのイベントをうまく造って絡ませてください
(全部をむりやり入れなくても結構です)

◆参考になる実在コチサ:
有名になったときにリポーターにばれる可能性のある以下の項目は実在コチサが提供するデータを使用して下さい
・初CMは後藤久美子さんのバックで流れる、某JRさんのCM
・ニュースステーションのオーディションに落ちる
・「NEWS23」課長島耕作特集での大町女史のエッチな声をスタッフに助けられながらも吹き込む
・その他出演CMが必要な場合は「実在プロフィール」から抜粋してね

◆第8章の選抜作品の紹介

(赤坂の「まるっちょ」さんの作品です)

伊達直人こと「タイガーマスク」は、人の心さえ凍らせる殺人マシーンとして人々の前に姿を現したのは、今は無きマンガ週刊誌「ぼくらマガジン」だったでしょうか?
「虎の穴」の修行は当時小学生だった僕たちに鮮烈な恐怖として襲いかかりました。
でも伊達直人さんは、その厳しい修行の中でも心まで失わないで堪え忍び見事大輪の花を咲かせてくれましたね。
まあこんな話し、26歳になったばかりの女性に話したところでちんぷんかんぷんですよね。

ただ僕は、あなたが耐えた「織田の穴」での苦しい修行が「虎の穴」とだぶってしまい、伊達直人の容貌とあなたの容貌が彫りの深さを通じて重なってしまうのです。

あなたが文字通り「ぼろぼろ」になって「織田の穴」を卒業して来た時を僕ははっきり覚えています。
女癖の悪い「織田哲」も当時は同じ教習生「武藤園絵」に手を付け責任をとって結婚した直後でもあり、またあなたの才能にただならぬものを感じたこともあるのでしょう、あなたにはしっかり稽古をつけて送り出したようでした。
実は僕はあなたが「織田の穴」に飛び込む前の姿も知っていました。だから卒業して来たときのそのかわり様は本当に驚いたものでした。
やせ細った体に宿った幾本もの筋肉の筋、伸びきった髪を被った頬かむりが風に吹かれて生き物のように顔に巻き付くさま、練習用タイツの縞模様。
まさにリングに立つ、タイガーマスクそのものでした。

「あなたに、あなたの努力に報えるステージを!」
当時の僕は分不相応の身ながら必死でそんなことを考え営業に走りました。
僕の形相がよっぽど尋常ではなかったんでしょう。代理店は思わずビッククライアントを手渡してくれました。
喜び勇んでいた当時の僕には、これが結果的にあなたのその後にプレッシャーを与えるようになるとはこれっぽちも気づきませんでした。

無事に大役をこなしたあなたにその後の仕事がさっぱり来なくなってしまったこと。
あなたはきっとそれを自分の限界のように苦しみましたね。
あの時のあなたの努力は自己鍛錬という言葉を超える悲壮感がありました。
いえいえ、あれはあなたのせいではなかったのです。
あなたを輝かすのも色褪せさせるのも、あの時、あの時代においては僕の営業努力においてだったのです。
あなたの声を認知させるまでは決してあなたの力ではどうにもならないのがこの世情のしきたりだったのです。
あなたの最初のCMは大成功でした。決して失敗というようなものは微塵も含まれていなかったのです。
だけどそれだけで将来が約束されるには、あなたにとって業界はあまりにも複雑だったのです。

「織田哲」、たいした男です。
しかしそれは育て上げる才能に関して一目置かれているのです。
「育て上げた才能を華開かせる」には織田はあまりにも猪突猛進で、業界の複雑な儀礼慣例慣習に疎い男だったのです。

華々しいCMデビューが結果的にあなたのその後の人生を深く考え込ませる人生に導いてしまったのですね。
僕は今もわくわくして思い出します。
あの日、あなたがMA室に入った時、一瞬の張りつめた空気がこの業界にどっぷり染まった現場関係者にまで失ってしまった何かを思い出させたような緊張感を走らせました。
案の定、あの時あの場にいた誰彼までも久しぶりに満足に値する仕事をしたことを後々まで述懐していました。
主役のなにがしさえ食ってしまうあなたの声は、その後のビッククライアントの繁栄をあの時決めたと言っても過言ではありません。

それに引き替え、「島耕作の大町女史編」ではあなたの輝きはすっかり失われてしまいましたね。
勿論それはあなたが巷で囁かれたように「仕事を選んだ」為では無いことは僕が一番知っています。
例え「あえぎ声」だけの仕事でも、「受けた仕事をその内容で手を抜く」ことが出来るあなたではないからです。
あそこまであなたを追い込んだのは本来ならあなたが悩む事ではないことをあなたに背負い込ませた僕たちの責任なのです。
話す言葉を持ちながら、十分発揮する場を与えられないもどかしさはあなたをして業界再編成を考えさせるほどの野望を育たせてしまったのだということをあなたと離れてこれほどの時間が経って、巷であなたの現状のご活躍を耳にする度に心痛む思いで振り返る毎日です。

僕はあなたも知っての通りその後事務所を辞めました。
そして僕の後任に入った敏腕マネージャー東君のもとで、あなたはいくつかのメジャーCMを好評のうちにこなしていきましたね。
誰の目にも、この分野であなたが第一人者として日の当たるスター街道をばく進していくのは明らかに見えました。
この僕でさえ一瞬そんな錯覚をしたくらいですから。

ただ僕は心のどこかで解っていました。
あなたは、あの時期を忘れていないと。少女期のトラウマのようにいつも心にすみついていると。
あなたが華々しいCMデビューをしてからの若干月の苦悶を。
事務所優先でしか仕事が決まらない現状、オーディションとは名ばかりの出来レース。
詰まるところ、本物を求めてることよりも居心地のいい関係を続けることに主眼をおいた業界体質。
いや、あなたはここまで否定してないかもしれませんね。
僕は業界に負けて逃げ去った身だから必要以上に卑屈になっているのかも知れません。

しかしあなたの中にあの時「しゃべることだけを究めていけば報われる」という神話が崩れたことをきっと僕だけが知っています。
あなたはいつかどういう形にしろ今までの形とは違う自分自身をアッピールしていくだろう。
「自分をマネージメントする自分」を見つけていくだろう。
僕が事務所を辞める日、あなたと交わした言葉を思い出します。

「先生、充分お考えになって生きてくださいよ」
実は今もこの言葉の真意を充分理解したとは思っていないのですが、あの時よりは少しは咀嚼したつもりです。
あなたの言葉はいつも、時が経つほど成長して大きくなっていきます。
なるほど「言葉を紡ぐ」あなたのなせる技だと思っています。

僕があなたの言葉をどういう風に理解したかですって?
今はまだ早い気がします。
あなたはこの後、はっきりした形で仕事のスタンスに悩み、インターネットやらを通して新しい自分を模索し、究極の夢「世界のMC」へ向けて旅立っていくんでしょ?

あなたの栄光の最後の章に、私はもう一度お手紙を差し上げたいと思っています。
その時先ほどの質問への私なりの答えを書かせていただくつもりです。

伊達直人ことタイガーマスクは、本流とは離れたほんとうに些細なアクシデントで夢を諦めることになってしまいました。
子供を助けて車に跳ねられ、失い行く意識の中でポケットからタイガーマスクの覆面を川に投げ捨てます。
自分がタイガーマスクだと誰にも悟られないように。
子供達にタイガーマスクの夢を永遠に残しておけるように・・・・・・

あなたのインターネットに対するスタンスもこれに似た危うさがあります。
あなたのホームページがいつの日かひっそりと消えていく。
それは私達に夢を与え続けるあなたの優しさかも知れませんが、僕たちはもう帰ってくるタイガーマスクを待つ子供ではありません。

あなたの喜びを後押しし、悲しみを和らげ、苦しみを分かち合うブレーンです。
あなたの栄光を見届ける私達には「鍋」以上の食卓を囲む権利があることをどうか肝に銘じて精進してください。


◆コチサの寸評

オヤジくさーい
最後の「先生〜」の部分で気がついたよ。夏目漱石先生の「こころ」をイメージしてるのね。
そういえば接続詞の使い方等それっぽいのもあったけど・・・・・
ただ夏目漱石先生、とくに「こころ」と来れば多くの専門家の評論の対象になっている日本を代表する文学の一翼を担ってるんだよ。
「コチシム」に転用するなんて申しわけなさすぎるからね。
この作品が選ばれた理由はただ一つ。全12章のなかでもエアポケットになりがちなこの章を、前後をうまく繋ぎながら「コラム若しくは閑話休題」的なポジションに位置づけたこと。
ほら参考書とかでも難しくなったところで、隅っこに枠で囲んで「コーヒーブレイク」とかいうタイトルで書かれている読み物があるでしょう。
そんなイメージとして面白く感じられたからです。
それと、第12章にもう一回返事をくれるのは辞退するよ。
なんか、予感がするんだよね。
最近仕事関係の制作会社もことごとくインターネット入れてるっていうし、ちょっと情報が詳しすぎる部分もあるし(勿論カットしたけど)

ということで、次回からのコチシムの新しいルール。
「放送関係者投稿お断り!」