大阪に転校したアッコちゃんが夏休みに帰ってきました
「中学生のくせにお化粧している」
コチサさんはまたまたびっくらこきました
夏休みの誰もいないコチサさんの中学の校庭で、一人佇み長い髪を風に靡かせ、アッコちゃんはフルートを吹いています
その姿は瀬戸内海に潜む人魚のようだと地元の噂になりました
そしてここは瀬戸内海を望む小高い岸壁
ここにも、潮の香りというより打ち上がった魚の匂いにむせながら、潮風に短めの髪はごわごわに絡みつき日に焼けた真っ黒な肌と自転車で鍛えられた健脚をあらわに、フルートを吹く少女がいました
地元の人魚の噂に対抗心をむき出しにしたコチサさんです
あっこちゃんは大阪で子供タレントスクールに通ってるという噂です
「私が助けたことは忘れたのかい、帰省をしたのに恩人の私には挨拶なしかい」
コチサさんが渋茶を飲みながらばばあのように文句をたれていると、文句の相手のアッコちゃんが笑顔でやってきました
「中学生のくせにお化粧している」
これがコチサさんの最初の台詞です
「佐知子さん、ごきげんよう」
コチサさんには生まれて初めて聞く挨拶の言葉です
アッコちゃんはとても美しくなっていました
少し不幸せな家庭環境も美しい顔に絶妙の陰を忍ばせ、アッコちゃんは大人の女としてうまれかわりました
健康な体、幸せな家庭環境、「太陽の申し子」と揶揄されるコチサさんとは正反対の美がそこにはありました
「皮肉と罵りあい」二人の関係は復活しました
お互い少しでもひねりのきいた言葉で相手をぎゃふんと言わせようと、逢えばマシンガンのようなおしゃべり攻撃です
しかし二人は夏休みの間、一日たりとも離れることはありませんでした
夏休み最後の日曜、アッコちゃんが大阪へ帰る最後の夜、
「このままじゃ決着がつかないまま終わるから、今夜はうちで夜明かしで最終戦争や!」
コチサさんは最後の宣戦布告をしました
戦いに備えて、お母さんに作ってもらったおにぎり6個を蚊帳の中に持ち込み二人は先ず腹ごしらえとおにぎりをほおばりました
5分後、おにぎり5個を食べ、口元にご飯粒を一つ付けたまま蚊帳の中で幸福そうに大の字に寝ているコチサさんを見つめる、おにぎり一つ食べたアッコちゃんの優しい目がありました
そして・・・・・
アッコちゃんの頭の陰がコチサさんの顔の陰に重なりました。
一粒のご飯粒を大事そうに唇に挟んだアッコちゃんが蚊帳から出ようとして、一度だけコチサさんを振り返りました。一粒のご飯粒の代わりに、アッコちゃんの瞳から飛び出た涙がコチサさんの唇に届きました
「佐知子さん、ごきげんよう」
朝が来ました
目覚めたコチサさんは横にあっこちゃんが居ないのに気づきました
「アッコのヤツめ、逃げやがったな」
どこまでも元気一杯のコチサさんです
コチサさんの初恋は誰も知らず、本人さえも気が付かず、始まって終わりました
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