第6章とは対照的に、
常連さんは「「グッド、ぐっど!」さんのみ。
今回は範囲が狭く物語を作るのが難しかったみたい。
最初の構成に問題があったのかと反省してます。
(厚木のコウちゃんの作品です) |
「おっぱいのひとつやふたつ見せないで、何が芸能人だ!」 延々と続くかみ合わない議論の後、コチサは「芸能人水泳大会、おっぱい班」の仕事を拒否することに成功した。 「歌は嫌!」 声の仕事が少ない。コチサはコチサなりに現実の業界の実状がつかめてきてはいた。しかしフリフリのドレスを着てニコニコ歌を歌うことは、ポリシーにあわなかった。というより音痴がばれるのが嫌だったのだ。 「声の仕事だぞ!なんでダメなんだ」 やりたかったけど、外人の女性のパワフルなあの声はコチサには出来なかった。それにあんな格好であんな大きな声を出すなんてコチサには信じられなかった。 「今度はどうしてだめなんだ、アルプスの少女だぞ」 コチサの求めてることは、まだこの世に存在しないものなのかもしれない。人から発声された「声」「言葉」が他の人の心に入ってそこから育っていく。そんなイメージをコチサは「言葉を紡ぐ」と表現しているが、では何をしたらいいのか。 「お前と同じように悩み続けて30年も経った馬鹿がいる」 すでに山猿のようなコチサが修行を重ね、山にこもり一層の山猿となって街におりてくるのはそれから一年後のことである。 |
せっかく東京に出てきて洗練されたのに、またあか抜けないコチサに戻っちゃたのね。 |
(札幌の花魁さんの作品です) |
「ほら、あの子よ」 3カ月前、アナウンス学校を首席で卒業したコチサは、数々のタレント事務所からスカウトされました。 この3カ月、コチサは忙しさで目の回るような生活をしましたが、振り返ってみればどれもタレントとして露出の仕事ばかりでした。純粋な「声」の仕事はひとつもありません。 「シューズに画鋲を入れる」「衣装を盗む」「下剤を飲ませる」・・・・・様々な嫌がらせはコチサも聞いていました。しかしこんな嫌がらせが・・・・・ 総合司会兼アシスタント役の由里さんが、すれ違うコチサにそっと「ニプレス」を渡してくれました。 由里さんは、タレントとしても人気がありましたが、将来は声優として仕事をしていきたいと願う強い意志を持った人でした。 由里さんの顔が変わりました。 「そういえば、本格的な発声レッスンなんてもう随分してないなぁ」 事務所では相変わらずいじめやいびりが続いています。 「時間がいくらでもあると思ってる人には何も話したくはないわ」 「まだ、あんなお仕事続けてるの?」 コチサは今、すったもんだの末、事務所を移動し、名もない小さなプロダクションで「商店街のセールの呼び込み」「バスの停車駅案内の吹き込み」など目立たない仕事をこなしています。なぁんだこれじゃ、アナウンス学校時代のアルバイトと変わらないじゃない。 また一つコチサは大きな経験をしました。 |
コチシムファンの皆様にはお解りのように、かなり「編集」が入っています。 |
(「グッド、ぐっど!」さんの作品です) |
失恋、というほどのことでもないわ。最初から、あの人の心の中には彼女しかいないんだ、って、判ってたんだから。私さえ気にしなければ、あとは今までどおり。だけど、。。そう、それが問題なんだわ。 なにしろ、彼が選んだ女性は、いつも私の目の前にいる。彼女の名前を呼ぶだけで、反射的に彼のことを思い出してしまう。鏡の前で撮影のためにヘアメイクをしてもらっている彼女を眺めながら、立ち直るまでにはちょっと時間がかかるかもしれないな、と、私はぼんやり思っていた。 ・・・・・・・・・・ 新入社員となった私は、先輩の渥美涼子さんの後について廻りながら、業界のことを学びはじめた。涼子さんは私といくらも年が離れていないのだけれど、彼女にはすでに子どものころからCMタレントとして活躍してきた長いキャリアがある。 今の名前に変えてからは声のお仕事を専門になさってるけど、同性の私でさえ見とれてしまうような美貌と、スーパーモデルもかくやと思わせるすらりと伸びた肢体を持ち、歌わせれば張りのあるソプラノで聴く者を魅了する、とくれば、歌手だのアイドルだの映画女優だのといった、あまたのスカウト話がひっきりなしだったはずだ。 「もしそんなことになってたら、合う水着がなくって、オールスター水泳大会で大恥かいてた位がオチだわ」と、彼女はサラリとかわしたけど、理由はほかにあったのかもしれない。(でも、彼女の口から妬みや嫉みとか、いじめとかの話は聞きたくないな、って思った。) 「見かけじゃなくって、声なのよ、あたしのアイデンティティーは。声で勝負したかったの。」そのためにプロダクションも名前も変えた。そんな涼子さんの「声」に対するこだわりは、すごい。整体治療の様な激しいボイストレーニングをまのあたりにして目を丸くしている私に、彼女が放った言葉は、今も私の脳裏に鮮明に焼きついている。 「声はただ出すもの、じゃあないわ。努力して創り出すものなのよ。」 ・・・・・・・・・・ 最初に見た時にはキザっぽく思えた彼のピアスも、いまではその形のよい耳にぴったり似合っているのがよくわかる。 そうだ。初めて透さんを見かけたのは、彼が涼子さんの部屋から出てくるところだったんだ。私に顔を向けたその人は、気の毒そうな顔をして、涼ちゃんなら、今日はもう帰ったから、と言った。 私は自分の名前を告げ、涼子さんにお世話になっていることを付け加えた。そして、自己紹介する彼を見つめながら、宮古透、ミヤコトオル、と、彼の名前を繰り返した。ちょっと、ドキドキしたっけ。 短く刈った髪は栗色。メタル・フレームの眼鏡が、理知的な面立ちによくマッチしてる。黒でつつんだきゃしゃな体の線と耳のピアスには、どこか妖しいイメージもあったが、ギョーカイの中ではそれほど目立ちもしない。 ずいぶんぶっきらぼうな口のきき方をする人だな、と思っていたのに、それさえ今では、だんだん好きになってきてる。。。 喫茶店のスピーカーから流れていた曲が途切れた時、私はたずねた。 ・・・・・・・・・・ 雑誌の表紙を飾る写真を撮るために髪を上げた彼女の耳に、見覚えのあるピアスが光った。 ・・・・・・・・・・ 撮影も済み、呼んでもらった車を、涼子さんと私は控え室で待っていた。 私は名前を呼んだ。自分でも、声が震えているのがはっきりわかる。 おそろいのピアスならあるかもしれないけど、耳の形までおそろいなんて、ありえない、と私は答えた。 「 ATUMI RYOKO は MIYAKO TORU の並べ替えだったんですね」 ・・・・・・・・・・ どっちがどっちの並べ替えなのか、あたしにもはっきりわかんないんだけど、と前置きして、「彼女」の声が語りはじめた。 「カストラート」。それは女声よりつややかなソプラノと、幅広い声域を併せ持つ歌い手。18世紀までイタリアのオペラを支えた、男性機能を犠牲にして芸術に身を捧げた人たち。 オペラ狂いの医者が、囲った女に生ませた子ども。女の子として育てられたこと。 自分の体がひととは違っていることを知った衝撃。顔とスタイルを誉められるたびに、逆にコンプレックスがつのっていったこと。そして。。。 そして、「声」。 「声」。ただそのために、運命さえ狂ってしまった。だけどそれが、今のあたしの、たったひとつの財産。 彼女は淡々と語り終えたが、私の耳にはいつまでも重い響きが残った。 ・・・・・・・・・・ 結局私はプロダクションを移ることにした。涼子さんから学ぶことはまだたくさんあるのに違いなかったが、もう消化しきれないほどいっぱい与えてもらったような気がしていた。 書店に並んだ雑誌を手にとり、こちらを見つめている表紙の彼女を眺めながら、すべてを理解できるようになるまでには、かなり時間がかかるかもしれないな、と、私はぼんやり思っていた。 |
支店長をはじめ熱心なファンを持つ「グッド、ぐっど!」さんがラストで登場。 |