No.014 2000.11.8
春に大工さんが来て始まった実家の家は、まだ完成しません。
21世紀の幕開けは、どうやらかつての倉庫、今の仮の住まいである小さなスペースで、親子膝を抱えての乾杯となりそうです。
父
「今年は帰ってこんでいいぞ」
コチサ
「なんで?」
父
「家が出来とらんのに、またうるさいのが帰ってきたら、せまっ苦しいていかん」
コチサ
「いいじゃん、みんなでお雑煮食べようよ」
父
「いらん、そっちで一人で食べとけ」
コチサ
「東京の雑煮は、そっちと違うんだよ」
父
「雑煮は雑煮、どこも同じゃ」
コチサ
「醤油の汁なんだよ」(※5)
父
「何?白味噌使ってないのか?」
コチサ
「お餅、焼いてから入れるんだよ」(※4)
父
「何、そのまま入れへんのか?」
コチサ
「お餅、四角いんだよ」(※3)
父
「何?丸くないのか?」
コチサ
「お椀に入って出てくるんだよ」(※2)
父
「何?どんぶりじゃないと入らんだろ」
コチサ
「それから・・・それから、お餅にあんこが入ってないんだよ」(※1)
父
「何?そんなのは雑煮とは言わん」
(※この数字は、東京に来て、それが普通なんだと納得するまでの年数・・・
最初の年、コチサは本当にお雑煮のお餅にあんこが入ってない東京のお雑煮って不思議だった・・・)
コチサ
「で、帰っていい?」
父
「もうワシの家じゃない、浩二に聞け」
コチサ
「何言ってるのよ、お父さんの家だよ。お父さんの家に決まってるじゃん」
父
「ワシの家は、壊した家で終わった・・・真っ黒になった大黒柱見たろう・・・ワシはお役御免じゃ」
コチサ
「新しい大黒柱は、まだ頼りないよ。お父さんがしっかり支えてくれなくちゃ」
父
「今度はワシが支えてもらう番じゃ・・・これからの益田家は浩二の時代じゃ。帰って来るんやったら浩二に言え」
厳格なまでに田舎のしきたりを守る父。
新しい大黒柱に責任感を持たせるため、あくまでも新しい家は、コチサの弟、浩二のものと言い張る。
お父さんもそうやって家を継ぎ、右も左もわからないままコチサ達を育ててくれた・・・
時代の変わり目は、いつもウキウキして、でも、いつもどこか寂しい・・・
大きなトラクターに乗って、畑の真中で陣頭指揮を執る・・・
子供は、なかなか親が年取ることを認めたがらないものなんだよ。
そんな感慨に浸っていると、また電話。
浩二
「ねーちゃん、帰って来るんだって?」
コチサ
「お父さんは、家がまだ出来てなくて狭いからって言うんだけど」
浩二
「ねーちゃん、帰ってきてもええで」
コチサ
「ん?」
浩二
「そのかわり、トップスのチョコレートケーキ買ってきてな」
コチサ
「浩二、あんた大黒柱なんだよ。子供みたいなこと言ってるんじゃないの」
浩二
「大黒柱もケーキは食うでぇ」
親の心、子知らず。
でも世の中ってきっとこうして続いてきたんだろうし、これからも続いていくんだろう・・・
コチサ
「浩二、あんた代替わりしても、ねーちゃんにお米はきちんと送らなくちゃあかんよ」
あぁ、これじゃまさにサザエさんとカツオくん!
お父さん、こんな子供たちじゃまだまだ隠居は出来ないね。
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