No.015 2000.11.10
週末は、埼玉で音楽教室発表会のMCです。
発表会の打ち合わせになると必ず、 「また、いつもの挨拶をするんですか?」と聞かれます。
かつてのコチサ
「皆さん、こんにちは、お姉さんの名前は益田沙稚子。お姉さんは12月21日生まれ、イチ・ニー・ニー・イチ、(ここでマイクを頭にゴン)痛てぇ、射手座です・・・
はいご一緒に、 イチ ニー ニー イチ・・・」
最近は全くやらないのですが、伝え聞いた人たちの間では「幻の一発芸」となっています。
担当者
「今回は、やってくれるんですか?」
コチサ
「もう出来ませんよ」
担当者
「リハーサルだけでもいいから、やって下さいよ」
コチサ
「マイクがボコッってなるから、PAさんに嫌がられるんですよ」
担当者
「PAからはOK出ています。彼もそれが見られるんだったら、マイクの一本や二本喜んで壊しましょうって」
コチサ
「もう子供さんたちが喜ばないんですよ、かえってしらけちゃったりしたら困りますし」
担当者
「子供達には、つまらなくても笑うように言っておきます」
コチサ
「そんなにしてまで見せるほどの芸じゃないです」
担当者
「知ってます」
コチサ
「じゃぁやめましょうよ」
担当者
「見たいんですよ、みんな。伝説の一発芸、本当にそんなバカなことやっていたのか。噂じゃなくてこの目で見たいって言ってます」
コチサ
「・・・やってたんですけど」
担当者
「でしょ。だから実際に見せてやってくださいよ。噂だけじゃないんだ、自分はここまでして、こんなことまでして這い上がって来たんだって。子供達に、生きるためにはここまでしなくちゃいけないんだって、人生を教えてやって下さいよ」
コチサ
「そこまで・・・そんなに、恥ずかしい芸だと思われていたんですか?」
担当者
「違ったんですか?」
コチサ
「結構、気楽になにげにやっていたんですけど・・・」
担当者
「よくあそこまで自分を捨てて笑いを取って・・・こんな小さな発表会にまで命をかけているんだな、悔しいだろう、辛いだろう、・・・でも話すことに身体を張って頑張っているんだなって・・・楽屋でスタッフが話してたって聞きましたが・・・」
コチサ
「なんか、売れないお笑い芸人の営業みたいじゃないですか・・・」
担当者
「いやお笑い芸人だって、あそこまで自分を捨てられませんよ」
コチサ
「あの・・・本当に今まで全然恥ずかしい事だと思ったこと無かったんです。でも、そんな風に思われていたとは知りませんでした。皆さんのお気持ちよーくわかりました」
担当者
「じゃぁ、やってくれますか」
コチサ
「いや、生涯あの技は封印します。我がコチサ家の名誉と威信にかけて、私コチサが二度とあのパフォーマンスを披露することは無いでしょう。失礼します」
担当者
「・・・そ、そんなぁ・・・」
その晩、受話器をマイク代わりに、新しい挨拶の開発に励むコチサがいた。
「みなさーん、こんにちは。お姉さんの名前は益田沙稚子。お誕生日は12月21日、ワン・ツー・ツー・ワン(ここでいったんしゃがんで、ちょっと飛びながら)うぅーワン!、戌年です
・・・」
あーぁ 名誉と威信をかけたコチサ家が滅んでいく・・・
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