No.158 2001.10.22
今のコチサの原型が小学校の3年生の時の「運動会」にあるという話を書いたところ(第152号参照)、
「本当にその前はおとなしかったのですか?」
という予想通りのメールをいただきました。
本当です(#^.^#)
小学校2年生のちょうどいま時分の頃の事です。
コチサの村では毎年、地域ごとの子供たちのレクレーション大会のようなものがありました。
ご存知のように、コチサの家は一際山の上の方だったので、地域ごとといっても近所のお友だちがいるわけではなく、全く未知な集まりに参加していくようなものでした。
コチサ
「いややなぁ、行きたくないよぉ」
お母さん
「行かなあかんて、行けば楽しいて」
いやいや山道を歩くコチサ・・・
心細さで一杯でした。
集合場所まであと数分という所まで来た時、斜め前のあぜ道からやはり集合場所に向かう長谷くんの姿が見えました。
長谷くんは、同じ学年の隣のクラスの子です。
話した事はないけど、今日集まる中では、顔を知っている数少ない子でした。
その長谷くんは、コチサなんかには気が付かず、ニコニコ歩いているのですが、その長谷くんの手を見ると、「カマ」が握られていました。
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コチサ(独り言)
「えっ?今日はカマを持って集まるの?聞いてないよぉ、草刈するのかな、どうしよう、カマ持ってないよぉ、どうしよう、どうしよう」
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まだ口先で人を操るなんて事は覚えていなかったコチサは、パニックで頭の中が真っ白になりました
ただでさえ知り合いがいないのに、カマを持ってなかったら仲間はずれにされる・・・
もう目の前が真っ暗でした。
ふと離れた畑を見ると、どこかのおばあちゃんが作業をしています。
コチサはそのおばあちゃんに駆け寄りました。
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コチサ
「あのなぁ、おばあちゃんなぁ、今日みんなで集まるんでここにきたんやけどなぁ、わたしカマがないのんよぉ。カマ持って来るん知らんかったんよぉ、うち遠いんでなぁ、カマ貸してくれへんかぁ」
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すごい度胸です。
はじめて合ったおばあちゃんに、コチサはこれだけの事を話したのでした。
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おばあちゃん
「そうかぁ、これで良かったら持っていけ」
コチサ
「ありがとう、後で返しにくるからなぁ」
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カマを持って走るコチサ。
集合時間に間に合いました。
ところが、集まっている20人ほどの子供たち、何処を見ても誰を見てもカマなんか持っていません。
さっき会った長谷くんも「カマ」なんか持っていません。
そこにコチサがただ一人、カマを持って現れたのです。
何か映画「八つ墓村」の光景です。
コチサは顔がぱーっと赤くなりました。
まだ誰もコチサのカマに気がついていないのをいいことに、コチサは急いでそのカマを集合場所の山の上から反対側の林に投げ捨ててしまいました。
コチサ
「それでね、そのことが20年以上経った今でも頭から離れないのよ。後で返しに来るからって言ったおばあちゃんの事が気になって。ねぇお母さん、あの辺に住んでいるおばあちゃんて誰だった?」
お母さん
「そない言うてもなぁ、わからんなぁ、そんな昔の話」
お父さん
「嘘や、嘘に決まっとる。こいつが、見ず知らずのおばあちゃんに話し掛けたりするもんかね」
コチサ
「でも話し掛けたんだよ。子供心にそれだけ必死だったんだよ」
お母さん
「そうやね、この子は忘れもんをしたりとか、そういう事に異常に恥ずかしがる所があったからねぇ。ねぇお父さん、20年以上前の話をこんなにはっきり覚えているんだから本当の事かもしれませんよ」
コチサ
「だから本当の事だって。こんな話で嘘ついてどうすんのさ」
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そして、お父さんお母さんを交えての、その時のおばあちゃん探しが始まりました。
可能性のあるおばあちゃんが3人ほど浮かび上がりました。
でも・・・
3人とも、もうこの世にはいないこともわかりました。
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お母さん
「なんでそん時言わんかったの?せめて3年後とか5年後とか・・・こんなに経ってから言ってももうどうにもならんのにねぇ」
お父さん
「今になって、けじめをつけたい言い出してもな・・・仕方ないな」
それでもお父さんは、翌朝コチサを連れ出し、あの時の集合場所に連れて行ってくれました。
そこは、小学生の時の印象とは全く違っていて・・・
コチサは、カマを借りたおばあちゃんがいた畑も、カマを捨てた畑も思い出せませんでした・・・
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お父さん
「今からでもええ、ここでお礼を言え」
コチサ
「えっ?」
お父さん
「お礼を言え」
コチサ
「えっ?何処に?誰に?」
お父さん
「畑に向かってお礼を言え。お前の伝えたい気持ちが本物なら誰かが聞いてくれちょる」
コチサ
「へっ?」
お父さん
「ほら、早よせい」
コチサ
「畑のおばあちゃん、コチサです。その節はカマをお返し出来ずにごめんなさい・・・」
お父さん
「よし!帰るで!」
見知らぬ子供に「カマ」を貸すなんて、今の時代なら信じられないことです。
でもあのおばあちゃんは、困っているコチサに手ぬぐいを貸すように「カマ」を貸してくれました。
コチサはその日、約束どおりにカマを返しに行かなかったけど、
その夜、おばあちゃんは、
「あの子、カマを返しに来なかったな」
と思うよりも、
「あの子、どうしたかなぁ?ちゃんとカマを使えたかな?」
と思ってくれたような気がしました。
調子の良い話ですが、あの頃って、みんな家族のようなものだったから・・・
そんな暖かさがあったから、勇気の無いコチサが「カマ」を借りられたんだと思うし、返せなかったカマの事を20年以上も思い続けていたんだと思います。
コチサ
「まぁそんな訳で、幼いコチサは本当に人見知りで、気の小さい子供だったわけです」
お父さん
「誰に話してるんだ、お前」
コチサ
「えっ?いや読者の皆さんにだけど」
お父さん
「わけわからんやっちゃな、お前は」
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