久しぶりのVPの仕事、それも顔出し出演ということで、いつもより入念に台本を読み、衣装なんかも揃えちゃおうかと、買い物の準備をしていたところで電話が・・・ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 担当のYさん 「あのVPの件、バラシになっちゃいました」 コチサ 「えー、明日だったのに」 Yさん 「そう、もう直前だったんだけど・・・」 コチサ 「・・・」 この話は、一週間前に始まりました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: Yさん 「顔出しVPの仕事なんだけど、お願い出来るかな?」 コチサ 「了解です。いつですか?」 Yさん 「一週間後」 コチサ 「そりゃまた、急な話で」 Yさん 「そうなんだ」 創業社長のある会社で、オリジナル商品の紹介のパンフレットを作ろうという話になりました。 Yさんは、いくつかの企画を出し、その社長さんと何度か顔合わせをしました。 そのうちに、なんで社長さんが、自社の商品のパンフレットを作りたいと思ったかの理由がわかってきました。 Yさん 「それなら、いっそビデオを作って、社長自らがこの商品への思いを語って下さい」 創業社長 「わたしがですか?」 Yさん 「そうです。この商品の事を一番わかっているのが社長です。そしてその伝えたい思いは、パンフレットでは伝えきれないものがあると思います」 創業社長 「そうですか・・・でも私には時間が・・・」 Yさん 「10日下さい。10日で全ての準備をします。社長には10日後にここで、インタビュアーの女性の進行で、今まで私に話してくれたように、商品への思いを語っていただければ結構です。後はお任せ下さい」 それからYさんは、スタッフを集め、三日で台本から構成までを完成させ、一週間前にコチサに出演依頼をしてきたのでした。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「そう・・・それは残念だったね」 Yさん 「うん。たった一日の事だったんだけどね」 コチサ 「・・・」 その創業社長が、なぜ自社の商品への思いを形に残して伝えようとしたか。 どうも社長は体調がすぐれず、早晩その事業から離れなければならなかった事情があったようです。 だからどうしても、社員たち、そして自分自身へ、その思いを形にしておきたかったという事です。 その思いを感じたYさんは、社長の思いを叶えようと、パンフレットからVPへと、より具現化が可能な媒体で実現にこぎつけようと走り回りました。 しかし、撮影予定日の前日、その社長が倒れたと連絡が入りました。 コチサは、その社長がなんで倒れたのか、どんな病状で、Yさんとどういう約束がされていたのかは知りませんし、あえて聞こうとは思いませんでした。 Yさんも、それ以上を話そうとはしませんでした。 ただわかったのは、明日の仕事がNGになったと言う事。 会社を興し、その会社を去らなければならなくなった人間が、その思いを残そうと頑張っていたという事でした。 世の中には、志半ばで途切れてしまう事業がありますが、それに賭ける人たちの熱い思いは決して消えていかずに、かかわった人々の心に残っていく気がしました。 そんな事を思いながら、電話口で考え込んでいると、何を勘違いしたか、 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: Yさん 「安心してよ、中止になったけど、前日だからちゃんとキャンセル料は払うからさ」 コチサ 「えっ?」 Yさん 「もちろん、全額じゃないけど、いいかな?」 コチサ 「えっ、うん、まぁ」 Yさん 「了解」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 考えてもいなかった、キャンセル料が振り込まれる事になってしまいました。 ただ、この創業社長の無念を思い、電話口でもの思いにふけっていただけなのに・・・ 日ごろの行いか・・・ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「まさに、沈黙は金、ってことだね。ありがたくいただくか」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そして、もう使わなくなった台本を、最後にもう一度だけ読み直して、いろいろな思いと共にゴミ箱に移動しました。 |
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