少年少女たちのピアノ発表会の舞台は、喜怒哀楽が錯綜します。
そこには世の中の縮図があります。
大舞台で実力以上の力を発揮する子もいれば、緊張のあまり今まで一度も間違えた事の無いところで失敗してしまう子もいます。
失敗してもニコニコ笑っている子もいれば、完璧に演奏をし終えたのに難しい顔をして反省点を見つけようとしている子もいます。
発表会の舞台では、こんなたくさんの個性が、物質の中を飛び跳ねる分子のように、自由運動を繰り返しています。
あと十数年もすれば、このそれぞれ魅力的な個性は、社会のヒエラルキーの階層の中にジグソーパズルのように埋め込まれ、優劣をつけられた能力として評価されてしまいます。
んーん、残念!^-^;
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小学校6年生の女の子が、舞台袖で極度の緊張状態を迎えています。
そばに付いている先生も困惑気味で、コチサに目で合図を送ってきます。
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コチサ
「やぁ(^o^)」
女の子
「はい・・・」
コチサ
「緊張してる?」
女の子
「はい、急に・・・」
先生
「どうしましょう、次の次が出番ですけど・・・」
コチサ
「舞台の上はみんな緊張するよね(^o^)」
女の子
「震えるんです。ピアノ弾けそうもありません」
先生
「あれだけ練習したのよ、大丈夫よ。自信を持って!」
女の子
「でも・・・」
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こういう時に、過激な励ましはマイナスです。
でも気持ちを落ち着かせる妙案はありません。
ある子供には通じても、別の子には逆効果になったりすることもあります。
先生の叱咤激励に、女の子はますます萎縮していくようです。
コチサの経験から言えば、この女の子の場合は、先生が緊張して女の子に頼るような状況を作るのが一番良いようです。
でも、今回は先生も若くて新人さんぽいし、難しい状況のようです。
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ふーっ、3時間にも及ぶ発表会が終わりました。
楽屋はプレッシャーから開放された子供たちの黄色い声で大賑わいです。
コチサ
「小学校の休み時間の教室って、こんな賑わいだったはずなんだけど、あの頃は全く気にならなかった・・・でも今では頭にキンキン響くよ^-^;」
秩序の無い空間と化した楽屋を居心地良く感じられるのは、子供の特権です。
残念ながら、コチサは随分歳を取りすぎてしまったようです^-^;
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あの小学校6年生の女の子も、その空間の中、お友だちと大声で笑って喋っています。
元気一杯で、バッヂを交換したり、食べ物を分け合ったりしています。
彼女は結局、ステージではうまく弾く事が出来ませんでした。
鍵盤を叩いていたのは彼女の指では無く、瞳からこぼれ落ちる涙でした。
そして彼女が今、仲良くバッヂを交換しているのは、ステージで実力以上の力を発揮したと先生に言われていた女の子です。
お互いにもう数時間前のステージは忘れてしまったように、あっけらかんとしています。
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先生
「本日はどうもありがとうございました」
コチサ
「こちらこそお世話になりました」
先生
「私、発表会初めてだったので緊張しちゃって・・・」
コチサ
「最初は誰でも緊張はしますから」
先生
「そうですか・・・じゃぁ次回は私も少しは落ち着きますか?」
コチサ
「えぇ今回より次回、次回よりまたその次という感じで、どんどん落ち着いてきますよ^-^;」
先生
「良かった(^o^)」
コチサ
「先生は大人ですから、そうやって経験を《慣れ》に変えていけますよ(^o^)」
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あの女の子はどうだろう?
小学校6年生でした。
子供でいられる時間は、もうそんなに長くないかもしれません。
でも子供でいられる間は、彼女は同じ事を繰り返すことが出来ます。
ステージの上で緊張して、悔しくて涙こぼして・・・
だけど終わってしまえば、もうそんな事は忘れて・・・
いつもの仲間たちが、いつもの仲間たちに戻っての時間がやってくる・・・
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個性が個性のままでいられて、それを評価することもなく自然のままに受け入れてくれる集団と空間があって・・・
子供でいられるということは、その集団と空間・・・つまりあの小学校の休み時間の教室のざわめきが、頭にキンキンこないことなんだなと、わかりました。